復興/雇用支援を問う 県社協の紹介うのみ

朝日新聞デジタル 岩手版 2013/01/23

http://digital.asahi.com/area/iwate/articles/MTW1301230300001.html?ref=comkiji_txt_end_s_kjid_MTW1301230300001

震災直後、雇用を作り出すことで被災者の生活再建を支援しようとした国の緊急雇用創出事業が、曲がり角に来ている。北海道旭川市のNPO法人「大雪りばぁねっと。」の資金枯渇問題の背景を追跡すると、岩手県山田町の委託で急激にふくれあがった活動と資金に、マネジメントが追い付かなかったこと、関係者の無責任とも言える構図が浮かび上がった。町と県にも大きな課題を突きつけた。関係者の証言をもとに、中間報告する。

●ほころび

2011年12月26日午後、小雪が舞う山田町の市街地を見下ろす丘に、町と県の幹部らが顔をそろえた。誰もが無料で利用できる入浴施設「御蔵の湯」の開所式だ。

沼崎喜一町長(当時)は、「被災者の生活に潤いを与えたい」とあいさつ。花山智行・県宮古地域振興センター所長は、「緊急雇用事業を活用してできた」と制度の活用を紹介した。「制服」で身を固めたNPO代表理事、岡田栄悟氏もいた。「突貫工事で、時には、現場に泊まり込んだ」といい、満面の笑みだった。

「御蔵の湯」は、町がNPO法人「大雪りばぁねっと。」に委託した緊急雇用事業の一つ。NPOが今年度分の委託費を使い切り、全従業員を途中解雇した今、沼崎氏も花山氏も「当時はそんな経営とは知らなかった」と話す。

自転車操業に陥った大きな要因は、1億3千万円とされる「御蔵の湯」の建設費だ。町が県から得られる補助金は最大6600万円。NPOは、建設に不足する分を他の経費に紛れ込ませたり、翌年度に繰り越したりした可能性が高い。11年夏には、建設のために、NPOの現地団体幹部を代表取締役とするリース会社「オール・ブリッジ」(石川県)が設立された。NPOが支払ったリース費を、建設費の不足分に充てたとみられ、その後、NPOが雇用した被災者の人件費への「流用」などにも、リース会社が使われた。

11年12月に「御蔵の湯」のオープンした直後には、NPOはすでに資金不足から12月の電気・水道料などの公共料金さえ払えなくなっていた。

●信用

なぜ、町や県は、震災前まで縁がなかったNPOを信用したのか――。

岡田氏らNPOの3人が山田町入りしたのは、11年3月27日。町の家屋の半数が津波や火災に遭い、街はがれきの山だったころだ。

応対したのは、町社会福祉協議会だった。岡田氏は「県社協の紹介で来た」「災害対策本部に案内してほしい」といってきた。ボランティアといっても、現場での作業を志願する一般の人と違う態度に、福士豊事務局長は「何者だろう」といぶかしんだ。支援と称する怪しげな団体を警戒していたからだ。

県社会福祉協議会の古内保之専務理事によると、岡田氏が山田町入りする前日、「どこに行ったらいいか」という岡田氏からの電話が県社協にあった。「『山田町がボランティアが少ないようだ』と情報提供しただけ」だったが、町にとって、県の外郭団体の名前の重みは違った。

町の幹部も、「水難救助の専門家」という岡田氏の自己紹介に魅力を感じた。防潮堤が倒れ、海に流された人が多く、捜索は難航。約800人の犠牲者のうち、いまでも約150人の行方不明者がいる町にとって、貴重な存在だった。

ゴムボートで洋上のがれきをかき分け、海に潜り、地下水路にも入った。約40人の遺体を見つけたという。いま、NPOの経理を追及する立場の町職員も、「岡田さんには、情熱があった」と認める。

昨年3月まで県沿岸広域振興局の副局長だった菊池正佳・県盛岡広域振興局長は11年8月ごろ、岡田氏がチャーターしたヘリコプターによる空から海上の遺体捜索に同行した。

菊池氏はいま、「NPOの遺体捜索の活動は高く評価していた」と話す。

(伊藤智章、田渕紫織、岩井建樹、国吉美香)

【緊急雇用創出事業】

NPO法人「大雪りばぁねっと。」の活動の中心は、山田町から委託を受けた緊急雇用創出事業だった。活動資金の原資は、町の委託費。原資は、国が県に交付し、県は町に補助した税金だ。2008年のリーマンショック後に設けられた厚生労働省の制度だが、東日本大震災で失業した人の雇用対策として活用された。

この事業は職を失った人に、次の仕事を見つけるまでの「つなぎ雇用」に過ぎない。最終的には長期雇用を求める被災者のニーズに応えるものではない。臨時や短期の仕事で、行政の事務補助やがれきの片付け、仮設住宅の見回りなど幅広く使われた。

また、事業は市町村など自治体が直接雇用する方法だけでなく、NPO法人など民間に委託することもできる。雇用期間は1年間(被災者は更新可能)だ。

東日本大震災後、国が対象分野に「震災対応」を追加し、計3千億円を積み増した。この制度の事業期間は、2012年度(一部は15年度)までだったが、昨年12月の政権交代で、新たに発足した安倍内閣が1年間の延長を決めた。

雇用創出効果は、震災前の2010年度は県全体で4482人。震災後の11年度は1万1308人、今年度は12月末現在で8125人だった。

国はこのほかの雇用創出策にも力を入れている。例えば、被災企業が被災者を1年以上の契約で雇うと1人あたり最大225万円を企業に払う「事業復興型雇用創出事業」がある。ただ、12年度に岩手、宮城、福島の3県で4万5千人分の雇用創出を見込んだが、11月末までの実績は9014人にとどまっている。対象者の2割は新規雇用することが条件になっており、再雇用の範囲内で雇いたい企業とのミスマッチが利用低迷の背景の一つにあるとされる。

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