復興/雇用支援を問う NPO経理にもろさ

朝日新聞デジタル 岩手版 2013/01/25

山田町の被災者らを緊急雇用したNPO法人「大雪りばぁねっと。」の資金枯渇問題の背景には、日本のNPOが抱えた組織のもろさも影響している。県内で活動する他のNPOは、今回の問題について「いい加減な団体と、無責任な町による特異な事案だ」という声が少なくない。「NPO不信」を警戒する。ただ、他のNPOを調べていくと、会計処理の問題を抱えていた。

●会計処理/専門スタッフ不足

「山田の件が表に出てからNPOへの世間の目が変わってしまったよ」

震災直後に仲間とつくった宮古市にあるNPO法人、「立ち上がるぞ!宮古市田老」の大棒秀一さん(61)は最近、周囲の冷ややかな視線を感じている。

2011年11月に法人化した。まちづくりへの意識を高めたいと、イベントや講演会などを主催してきた。12年度は緊急雇用の3人を雇う市の委託事業を受け、年間1200万円の予算を組んでいる。ただし、NPOの運営は初めて。放射線技師だった大棒さんにも、仲間にもノウハウはなかった。

「活動は熱意だけではだめだ」と痛感したのは、11年度の決算のころから。税理士にチェックしてもらったら、無償で来てもらった外部講師に食事をごちそうしたり、お土産をもたせたりした費用が認められなかった。整理していない領収書の束も当然、だめ。

そこで昨夏から、会計文書づくりを支援するNPO法人「シニアパワーいわて」(盛岡市)から、指導を受け始めた。いまは職員作成の支出申立書に大棒さんが判子を押したうえで、支出し、領収書を添付して書類を保管する仕組みを作り上げた。

「こんな会計処理まで必要とは思わなかったが、組織を動かすには大切なんだな」と語る。

組織運営に課題を抱えるNPOは多い。政策評価をするNPO法人「政策21」(盛岡市)が昨年8月に実施したアンケートによると、回答を寄せた県内178のNPOの半数が資金不足を課題に挙げ、3割が税務や経理などの専門スタッフが不足しているとした。

「シニアパワーいわて」の八島征治理事長は、支援先のNPOで会計処理を指導しても、給料の安さから辞めていくスタッフがいるなどNPOの置かれた厳しい実情を見てきた。それでも八島さんは「経理をしっかりしてこそ市民からの信頼を得られる」と話す。

●NPO急増/県、チェックに限界

東日本大震災では、多くの県内外のNPOが沿岸の被災地に入った。職員不足に悩む市や町に代わり、被災者の見回りなどをしてきた。県内で認証されたNPOは、震災後の約2年間で83団体も増えた。うち35団体が震災の対応を目的に設立された。

NPOの法人格を取得するメリットは、対外的な信頼性が増すことだ。企業や自治体の事業の委託が受けやすくなる。

1998年に施行されたNPO法では、組織運営の自主性を尊重。NPOが積極的に情報を公開し、自浄作用を働かせて運営を改善することを理想としている。法律では所管する都道府県などに毎年、事業報告書を提出することになっており、市民の目によるチェックが届くように公開されている。

それだけに、一部の悪質なNPOを、自治体が見抜けない恐れもある。NPO法人「大雪りばぁねっと。」を11年から所管する旭川市は、今回の問題発覚後、慌てて情報収集を始めた。事業報告書の提出を受けていたが、担当者は「不審な点に気がつくことができなかった。専門的な知識を持つ職員が多くないし、そもそもNPOは市民の自由な活動を促す精神のもとにあり、厳しく取り締まるものではない」と釈明する。

山田町で21日に開かれた町による第三者調査委員会では、委員から「最低限の審査がなぜできなかったのか」と、町の対応に疑問の声があがった。

県内では09年、「いわてNPOセンター」(解散)による書類の偽造や不適正な経理が発覚。その後、元理事長ら3人が詐欺容疑で逮捕される事態となった。県はこの事件を受け、NPOへの委託事業に関わるガイドラインを作成。委託先のNPOに任せきりにするのではなく、定期的に事業の進み具合や経理の適正さを確認するなど、一定のルールをつくった。

だが、このガイドラインの対象は県の委託事業。市町村の委託は含まれず、周知はしていなかった。県は、山田町の問題を受け、22日、市町村にこのガイドラインを参考にするように通知した。

●ルール/補助金対象外、自腹に

「問題はなかった」

22日、県議会の商工文教委員会で、県の高橋宏弥・雇用対策課長は、NPOや民間企業に委託された計488の緊急雇用事業で、従業員の賃金支払いや会計処理は適切だった、という答弁をした。山田町での問題を受け、昨年12月に事業を委託する市町村に緊急点検を指示していた。

ただし、緊急雇用として補助金が認められる範囲について、解釈が割れた事例もあった。遠野市は、県の指示が出る前の昨年9~10月、委託先であるNPO法人「遠野まごころネット」に市職員を派遣し、会計処理について調べた。

このNPOは、経理に熟知した専門スタッフを4~5人置く。それでも一部の支出について、市の委託費では認められない、と指摘された。県による市への補助金の対象外ということだ。

例えば、遠野市は、緊急雇用でリースした車のため、緊急雇用された被災者以外のボランティアのみで使用したときのガソリン代は認められない、と指摘した。事務所のトイレットペーパー代も、ボランティアが使用した分は事業の対象外とした。

また、働いた時間が週20時間未満の被災者は、「緊急雇用で想定される常用雇用ではない」ため、委託費に含まれる人件費として認められない、とした。そのため「その他経費」として会計処理するように指示した。緊急雇用では、2分の1以上を人件費に充てられなければいけないルールだ。

対象外となった事業の総額は、市は「取りまとめていないのでわからない」、NPOは「まだ確定していないのでコメントできない」としている。

遠野まごころネットの多田一彦理事長は「私たちは委託された側なので指示に従う。対象外とされた分は自腹で払うつもりだ。解釈が違わないように、事前に明確なマニュアルがあるといいのだが……」と話す。

(岩井建樹、伊藤智章、国吉美香)

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