毎日新聞 2013年01月29日 地方版
◇ローカル紙に「私記」連載…逃げ惑う姿などつづられ
東日本大震災を体験した山田町後楽町の元高校教師、田村剛一さん(74)が盛岡市のローカル紙に連載した「震災私記」を電子書籍出版社の「岩手復興書店」(盛岡市)から31日発行する。逃げ惑い、肉親の安否を求め回る隣近所の人たちの姿などがつづられている。田村さんは「経費を掛けずに体験記録を後世に残すのに電子書籍は合っている」として選んだという。【鬼山親芳】
ローカル紙「盛岡タイムス」に11年9月から昨年9月まで、「大震災私記」と題して230回連載。うち前半の120回について「岩手県山田町・地区防災会長の大震災私記−津波と地域コミュニティー」の題名で電子書籍化した。3章に分け、震災発生時の混乱から、生活がやや落ち着くまでの身辺での出来事を一話完結で描く。400ページ。
山田湾の海水が引いて湾に浮かぶ大島、小島が陸続きとなった光景や、火災が発生して迫り来る猛火、畑にスコップで穴を掘っての仮設トイレ作り、何人もの教え子や友人らが犠牲となったこと、骨箱を胸に近くの寺に出入りする人たちの様子など、現場にいなければ分からないことが記されている。
本を読むには「岩手復興書店」を検索してサイトからダウンロードするか、近日中にはCDロム(税込み1050円)を盛岡市内の主要書店で発売する。岩手復興書店は昨年3月まで盛岡タイムスの常務編集局長だった関口厚光(こうこう)さん(55)が11月に設立した県内初の本格的な電子書籍出版社。田村さんの書籍は5冊目の発行になる。
町議でもある田村さんは今回の発行を手始めに、津波の資料や記録を後世に伝える民間施設「山田伝津館(でんしんかん)」の建設を目指す。震災から2年となる3月には、町民から提供してもらった震災発生当時の生々しい写真を集録した写真集「あの日から明日に向かって」(2500円)を有志らと発行する。