「言霊返り」を読みました。

言霊返りを読みました。

言霊返り

ある夏の休日、俺は退屈を持て余していた。

見たいテレビも無く、暑い中出掛ける気も起きず、ダラダラとパソコンをいじっていたところ、ポータルサイトに

「真夏の心霊特集」

と言うタイトルを見つけ、何気なく開き、1番上のリンクをクリックした。

開いたサイトは、自分の恐怖体験などを投稿するスタイルらしく、そのサイトが初めての俺は、何から読んで良いのか迷いとりあえず人気ランキングの上位から読み始めた。

さすがに上位にランクインしている投稿はどれもレベルが高く、俺は時折

「うわ、怖えー。」

「これ、夜見てたらヤバイわ」

などとつぶやきながら読み進めた。

何作か読んだ時、投稿の下部にコメント欄が設けらているのに気付いた。

その時読んでいた投稿は、

深夜の地下鉄車内で、誰も座っていない自分の隣の席に窓ガラスが暗くなった時だけ、俯いた女性が写る、

と言った内容で、ベストテン作品程の読み応えは無い物の中々の怖さを感じさせた。

この位の話だと、どんなコメントが付いてんだ?

と、興味に駆られた俺はコメント欄を開いて見たところ、

@怖いデス~(T . T)

とか、

@もう夜電車乗れませんよ~

なんてコメントと並び、

@ありきたりなんだよ!てめーの話 はどれもつまんねーから、二度と投稿すんな、ボケ‼

だとか、

@文章能力ゼロ、小学校からやり直せ。

と言ったあからさまな誹謗中傷のコメントも幾つか目についた。

(ふーん、ひどい事書く奴もいるんだなあ、そんなに詰まらない話じゃないけどねぇ)

とは思ったが、次の話が気になり、他のコメントは見なかった。

またしばらく読み進め、人気ランキング作品を全て読んだ俺は、殿堂入り( これはスゴイのばかりだった。)も一気に読み切ったのだが、まだ物足りず、TOPページから、新着投稿に入って見た。

新着投稿は、今までに比べると、あれ?と思うようなクオリティの作品が多く、

(やっぱランキングに入るのはレベル高いんだなあ、こりゃ面白いの探すの大変だわ、)

と考えながら、面白そうな話を探していたところ、

「海で幽霊見た時の話」

と言うタイトルを発見した。

そこまでの新着投稿は、心霊に全然関係無いような内容や単なるおふざけのような短文ばかりで、余りのくだらなさに多少食傷気味だった。

そこに、心霊っぽい投稿があったからすぐに喰いついて見たんだけど、

内容はまあ酷かった。

自称中2の投稿者が、友達と海に行って、幽霊のような白い物を見てビビって帰った。

と要約すればこんな話なんだが、文章は本当に子供の絵日記レベル、結局幽霊かもわからず

(だから何が言いてんだよ!)

と、ツッコミを入れたくなる様な代物だった。

「あーあ、時間の無駄!」

と毒づきながら次の投稿に移ろうとした時、ふと思い付いた。

こーいう駄作にこそ、コメント付けてあげないと駄目だよねぇ。

コメント欄に移動すると、まだ一件も入っていなかったので

「お、初コメゲット!」

と呟きながら、俺はキーボードを叩いた。

@何が言いたいのかな?
全く解りませんでした。

(まあ、子供相手だし、あまり酷いコメント残してトラウマになるのも可哀想だしなあ、)

と思い、キツくは書かなかったつもりだった。

その後も面白い作品は見つからず、飽きてきた俺は、遅い昼メシを食って昼寝することにした。

昼寝から目覚め、ダラダラ過ごした俺は、またやることが無くなったので、パソコンを立ち上げ、再びホラーサイトを開いた。

(そういえば、さっきのコメントなんか反応あったかなあ)

ふと思い付き、先ほどの投稿を降りて行ったところ、自分のコメントの次に投稿者からと思しきコメントが残されていた。

@意味がわかんないなら、読まなくていいお、ガンバッて書いたのにヒドいコメはまじウザ

(何~!この野郎!)

流石に、俺もムカついた。

「てめーの稚拙な文章指摘してやったのに、何言ってんだコラ!」

毒づきながら、新たなコメントを入力する。

@意味わかんね~から、コメ入れてんだろ‼幼稚園児の作文なんか、書くのも読むのも電気のムダなんだよ!クソガキ‼

勢いに任せてそのままupし、俺は新着投稿を読み続けた。

しかし、面白い投稿は無く、余計にイライラした俺は、先ほどコメントを残した投稿を再びクリックしていた。

(クソガキが何か反論してるか?)

と考えながらコメント欄に到達すると、そこは凄いことになっていた。

俺のコメントに反論した投稿者を総攻撃するかの如く、ボロくそにこき下ろしたコメントが20件近く書き込まれていたのだ。

(当たり前だよ、みんな同じこと思うよな。)

とニヤニヤしながらコメントを見ていると、最後に投稿者から短いコメントが入っていた。

@みんな、ヒドい・・・
もう、投稿しないから

ざまあみろ、俺は心の底から笑いながら1人つぶやいた。

その日から、そのサイトで下らない投稿者をコメントで淘汰
するのが俺の日課になった。

淘汰する相手には困らなかったが、俺はなるべく女とガキを選んだ。

女とガキは感情的になって反論してくるが、俺と同志(勝手に思ってるだけだが)の波状攻撃に耐え切れず、最後は泣いてる様子が目に見えるようなコメントを入れるか、だんまりになって消えて行くからだ。

しかし、一度だけ酷い目にあった。

サラリーマンと思われる男が、出張中のホテルであった心霊現象を投稿していたもので、落ち着いた文章で読みやすかったのだが、オチが今一つだったので、俺はこいつも淘汰することに決めた。

オチつまらん、こんな駄文うpしている暇があるなら被災地でボランティアでもして来いww

しばらくすると、投稿者からの反論が来た。

お気に召さかったようですいませんが、一言言わせて貰います。
私は今、被災地でプラントの再建を行なうため、東京から単身赴任をしています。
家族に逢えないので気を紛らわそうと投稿いたしました。
実体験なのでオチは確かにつまらないかもしれないですが、 広い心で読んで頂けると幸いです。

これは参った、そこからはまるで爆発したかのように俺へのバッシングの嵐だった。

さすがにヘコんだ俺は早々に退散し、

「匿名で良かったなあ」

と深いため息をついた。

しかし、こんな程度でメゲはしない。
俺は実生活では田舎の高校を卒業し、地元で就職口がないため上京して5年のしがないフリーターだが、このサイトではカス投稿者を淘汰するガーディアン
を自負していた。

バイト先にも友達と言えるほどの奴はいないし、暇を持て余した俺は、ほぼ毎日サイトを巡ってはカス投稿者共に正義の鉄槌を下し続けた。

この間の件を踏まえ、相手は女とガキをメインに厳選し、どんどん過激さを増すコメントを送りつづけた。

下ネタ、人格否定、細かい設定や誤字、脱字の揚げ足取り

書こうと思えば、どんなところにでもクレームは付けられた。

不思議なことに、俺のコメントが過激になれば成る程同志達は増えて行き、俺たちは匿名性をフル活用して、カスどもを淘汰していった。

そんな俺たちを「荒らし」とか言って批判する偽善者も時折現れたが、同志達の結束により、皆コソコソと逃げ帰った。

俺たちの活躍もあり、たまに勘違いしてカスが現れる事もあったが、サイトの投稿レベルは驚くほど高くなり、数は少ないものの上質なホラーを堪能出来る様になって来た。

しかし、俺は気を抜く事なく巡回を続けた、せっかくここまで良くなったサイトを再びカス共に蹂躙させる訳には行かなかったからだ。

そんなある日、俺は久し振りに標的となるカス投稿候補を見つけた。

タイトルは、

「言霊返り」

いかにもパクリの匂いがプンプンだ、俺は

(どうか、淘汰出来ますように)

と、祈る様な気持ちでページを開いた。

皆さんは、言霊返りをご存知ですか?
人に向けて放たれた言葉は力を持ちます。
良い事を言えば、良い事が
悪い事を言えば、悪い事が
まるで鏡の様に自分自身に返って来るのです。
これは面と向かって言わなくても同じこと、因果応報は格言
ではありません、警告なのです
くれぐれも己の言葉にはお気を付け下さい。

(はあ、なんだこりゃ)

最初の印象は、これだった。

(まあ、良くわかんねえけど放置でいいかな?)

と、思いかけたが、最近淘汰してないストレスもあったし、せっかく良い感じに成って来たこのサイトの趣旨が解って無い気がしたので、俺はこいつも淘汰することに決めた。

@意味わかんねえぞ、説教なら宗教スレでも行ってして来い
俺らのサイトにこんなヨタ話は要らねーんだよ!

まあ、この内容だと同志達もあまり喰いついてきそうにないので、俺は追い払えばいいや、位の軽い気持ちでコメントを打った。

飯食ったり、風呂入ったりしばらくノンビリしてから、俺はバイト先であるファミレスに向かう準備をした。

(今日は遅番かよ、めんどくせえなあ、)

何て考えながら、シャットダウンしようと画面を開いた。

(一応、反応見ておくかな?)

すっかり管理人気分の俺は、コメント欄をチェックしてみたが案の定同志達の興味を惹かなかったらしく、投稿者からのコメントしか増えていなかった。

@どうやらご理解頂けなかった様ですね、残念です。

(なんだコレ?偉そうによぉ)

ムカついた俺は、舌打ちをして
コメントを入力した。

@うぜえんだよ、カス野郎!
理解してどーなるんだよ、
死ね、ボケ‼

クソが、とさらに毒づきながらシャットダウンし、俺はバイト先へとチャリを飛ばした。

その日は週末だったので、ホールに入ってしばらくは忙しかったのだか、日付けが変わる頃には、店内は閑散としており

(今日もヤマ越えたなあ、早く帰りてー、)

とボンヤリしていたところ、先ほど来店したヤンキーカップルの男に呼ばれた。

「おい、この唐揚げよお、中まで火が通ってねえじゃん。
腹壊したらどうすんだよお、
お前責任取れんのか、あ」

皿を見ると、提供時には6個ある唐揚げは、2つに減っており、そのうち1つはかじり掛けであった。

(こんだけ食う前に気付くだろ
普通、お前らなんか何食っても当たらねえよ。)

と、心の中では考えながらも、神妙な顔をしてテーブルに近づき、マニュアル通りに

「大変失礼致しました。
すぐにお取替えいたします。」

と言おうとした時、俺の口が勝手に動き出した。

「うるせえよ、クズ野郎、 さっさと電源切ってオナニーして死ね!」

(え、
何言ってんだ俺?)

予想外の事態に頭が混乱している時に、ヤンキーが怒鳴りながら立ち上がった。

「なに、てめえ、殺すぞ!」

と、聞こえた瞬間、目の前に火花が散って俺は、隣のテーブルに叩きつけられていた。

(がっ、痛ってえ、何?)

混乱しきった俺の腹に、さらにヤンキーの蹴りが入る。

「やめて下さい!」

キッチンから夜間チーフが飛び出して来る。

激高したヤンキーは、さらに俺を蹴ろうとしていたが、チーフと彼女が必死に止めているのが、横目に見えた。

「あんた、責任者?」

フーフー荒い息をしながら、ヤンキーが目をギラつかせ尋ねる。

チーフは、びびりながらも答える。

「は、はい、何かご迷惑をお 掛け致しましたか?」

「こいつバイト?」

ヤンキーが床に倒れ呻いている俺を、足で差しながら続けた。

「いやあ、オレもいきなり切 れ過ぎたけどさあ、こいつに接客ちゃんと教えとけよ。
客にクソ野郎とか言わねえだろ、普通?」

苦笑いしながら話すヤンキーに
チーフは平謝りだった。

「申し訳ございません。
良く言って置きますので本日はどうか収めていただけませんでしょうか、あ、勿論お代は結構ですので。」

と、普段からの事なかれ主義をフルに発揮し、チーフは平身低頭していた。

ヤンキーも、

「まあ、良いよ、オレもちょっとやり過ぎたし。」

と、言いながら彼女を促し店外に出て行き、店は静寂を取り戻した。

「大丈夫、タカハシ君、一体何があったの?」

テーブルから落ちた調味料を片付けながらチーフが話し掛けて来る。

ようやく動ける様になった俺は、ノロノロと立ち上がり、チーフに状況を説明しようとしたんだが何故か舌がもつれて、

「あぅー、 あぅー」

と意味のない言葉しか、出てこなかった。

まあ、それでもチーフは俺がショックで話せないんだろう、好意的に判断したらしく、

「今日はもういいから帰りなさい。」
「店長には言わないから、君も余計なことを話さないようにね。」

と、言ってくれた。

俺はカクカクと頷き、チーフに頭を下げ、私服に着替えて自宅に戻った。

(ぅー、痛え、何なんだよアイツ)

口の中も切れているし、身体中が痛い、鏡を見ると右目の周りに見事な青タンが出来ていた。

(参ったなあ、コレじゃ外でれないよ。)

鏡の中の情けない顔が呟く。
幸いにも明日、明後日はシフトの都合で連休なので、俺は家でゆっくりする事に決め、ベットに入り深い眠りについた。

目覚めるともう翌日の昼近くなっていた。
相変わらず身体は痛いが昨日よりは大分マシにはなっているどっこいしょ、と老人の様に声を出しながら起き上がるとテーブルの上に置いてあった携帯電話がチカチカ点滅しているのに気付いた。

(メール?誰からだろう?)

友達が少ない俺には、電話も
メールも滅多にこない、基本的には親からの電話と、学生時代のクラスメイトから同窓会の誘い、あとは迷惑メールがほとんどだった。

期待もせずに携帯を開いた俺は、珍しく興奮した。

何と、先日バイトの先輩に人数合わせで連れて行かれた合コンに参加していた女子大生からのメールだったのだ。

普段の俺は、地味な見た目の通り、あまり他人と話すのが得意ではなく、結構人見知りするほうだ。

当然合コンも苦手だし、誘われる事も滅多になかった。

だから、その時の合コンも行きたくはなかったのだが、隣に座った大人しそうな女の子がおずおずと話し掛けて来れたので
ポツポツと会話をしたところ、

アニメや音楽の好みがかなり近く、俺は珍しく饒舌になっており、その子も楽しそうに話してくれた。

帰り際、勇気を振り絞ってメアドの交換を持ち掛けたところ、

「分かりました」

と、笑顔で応じてくれたのでウキウキしながら帰宅したのだが、女の子にメールを送った事が無い俺は、何て送れば良いのか分からず、モヤモヤしたまま数日を過していた。

彼女からのメールもないので、諦めかけていた頃だったので、余計嬉しく思いながらメールを開くと、

この間は楽しかったです。
またアニメの話聞きたいです
連絡してくれるとうれしいな
ゆみ

と、入っていた。
天にも昇る気持ちの俺は、

(彼女いない歴23年、ついに終了かあ?)

とニヤニヤしながら文章を考えに考え、自分もすごく楽しかったのでまた是非会いたい、と返信した。

早く返事がこないかなあ、と
ソワソワしながら過ごしていたが、あまりに落ち着かないのでパソコンでもやって気分を紛らわす事にした。

いつもように、ホラーサイトを開き、パラパラと見ていた俺は、この間淘汰しきれなかった投稿を思い出した。

「言霊返り」

をクリックし、コメント欄に行ったものの、同志の煽りコメも無く、平穏な状況だった。

(チッ、詰まんねーの)

と、閉じようとした時、ふと違和感を感じた。
投稿本文の最後に

-進行中-

と言う文字が挿入されていたのだ。

(?こんなのあったっけ?)

何の脈絡も無いその単語に疑問を感じたが、

(ま、この間見落としたんだろ)

と解釈し、他の投稿に移ったもののメールが気になって仕方が無く全く集中出来ないのでパソコンの電源を落とし

(果報は寝て待て、だな)

と昼寝を決め込むことにした。

ベットに入っても中々寝付けず
寝返りばかり打っていたところ、

ピンポーン

と玄関のチャイムが呑気な音をたてた。

(どうせセールスだろ)

と思った俺は、居留守を決め込もうとしたのだが、何度もチャイムを鳴らされ、ドアをドンドン叩かれるので、諦めてドアを開けた。

ドアの外には、先日合コンに誘ってくれた先輩と、その彼女
そして何故か、さっきメールしたはずの由美ちゃんが立っていた。

「あれ、先輩どうしたんですか?」

と俺が言うより先に、多分に怒気を含んだ口調で先輩が口を開いた。

「おい、タカハシ、お前どういうつもりなんだよ。」

(へ、何?)

全く状況が掴めず唖然とする俺に、先輩の彼女がまくし立てた。

「あんた、一度会っただけの由美に何てメール送ってんの!」

「あの子オトコと付き合った事も無いのに凄いショック受けてるじゃない。 この変態!」

(え、何、何なの?)

俺は、完全にテンパり、口をパクパクさせていたところ、先輩に胸倉を掴まれ、携帯の画面を見せられた。

そこには

「うるせー、くされマ●コ!
どうせキュウリ入れるくらいしか役に立たねえから、ぬか漬けでも作っとけ!」
「何なら、俺のマツタケでも漬けるか?ヤダよバーカ!」

と書いてあった。

俺はパニックに成りながらも無実を証明しようと口を開いたが、また言葉が出なくなり必死の形相で首を左右に振った。

「とぼけてんのか、お前!」

先輩は、更に険悪な声を出しながら、携帯を操作し送信者一覧を俺に示した。

ガクガクしながら画面を見ると、

タカハシ君

と言う文字と共に見慣れた、俺の携帯アドレスが記載されていた。

(なんで?なんでだよ?あ、そうだ時間、時間は?)

殆んど思考能力を失いながらも、ポケットから自分の携帯を取り出し見比べてみると、全く同じ時間なのが確認出来た。

ガタン、愕然としながら携帯を取り落とすと、すかさず先輩の彼女が拾い上げ、先輩に画面を示した。

「ほら、リュウ見てよ!
全く時間同じだよ!
やっぱりこいつが変態で間違いないよ!」

すると、先輩の後方から

「そんなあ・・・」

と言う声が聞こえ、由美ちゃんが肩を震わせて泣いているのが見えた。

(ああ、泣いてるよ)

と思った瞬間、俺は昨日と同じ衝撃を受けて部屋の中にふっ飛んでいた。

頬を押さえて、上半身を起こすと、冷たい目をした先輩が言った。

「お前よお、前から暗い奴だと思ったけどこんな変態野郎だとまでは思わなかったよ。」

「今後二度と俺たちの前に顔出すんじゃねえぞ、今回の事バラされたくねえんならバイトも辞めろ!分かったなクズ野郎‼」

俺は、目に涙を貯めながらただ頷くしかなかった。

そんな俺に唾を吐き掛け、

バタン!

と、大きな音を立てて先輩達は帰って行った。

由美ちゃんは最後まで泣きじゃくったままだった。

俺は全く頭が整理出来ずしばらくボンヤリとしていた。

(何だ?どうなってるんだ?
おかしくなったのか、俺?)

考えがまとまらない、昨日といい、今日といい、一体何が起こっているんだ?

いくら考えても、解らない
とりあえず玄関に転がった携帯を拾った。

(そうだ、メール!俺が送った奴!)

(確認してもらえばいいんだ、
これで誤解が解ける!)

俺はボタンを押すのももどかしく、送信済フォルダを開いた

(え・・・?)

フォルダに現れたのは、さっき先輩に見せられたのと寸分違わぬ下品な文章だった。

(そんな、違う!)

俺は、全てのフォルダを開き、自分が送ったメールを必死に捜したが、消去した記憶が無いにも関わらず、何処にも見つからなかった。

どの位ボンヤリしていたんだろう、いつの間にか外は真っ暗になっており、ようやく俺は我に帰った。

(そうだ、バイト辞めるって言いに行かないと、やっと慣れて来たのになあ。)

ノロノロと立ち上がり、顔を洗って服を着替え、ため息をつきながら俺はバイト先に向かった。

チーフに事情を話すと、チーフは昨日の真相を他のバイトに聞いていたらしく、

「そうだね、ちょっとお客様にあんな事を言うようじゃ、今後働いて貰えないと思っていたから、しょうが無いね。」

と、あっさり辞める事を認めてくれた。

最後のバイト代の振込みや制服の返納などの手続きを済ませ
俺は店を後にした。

ゆっくりと自転車を漕ぎながら、今自分に何が起こっているのか考えを巡らせたが、考えれば考えるほど思考がボヤけて行くようだった。

アパートに程近くなった所で、
いつも寄っているコンビニが見えた。

(腹、減ってないな・・
でも、このまま帰りたくもないから立ち読みでもしよう。)

だだっ広い駐車場に自転車を止め、俺は店内に入った、マンガ雑誌をパラパラ捲るが内容は全く頭に入らない、

(帰ろう、)

ため息をついて、出口に目を向けるとATMが目に着いた。

(そういや、財布ん中千円くらいしか無いよなあ、バイトでまかないも食えないし、少し多めに降ろしておくか、)

俺は財布からキャッシュカードを取り出し、なけなしの貯金を引き出して店をでた。

店を出る時視線を感じたような気がして振り向いたが、ニッカポッカを履いた金髪の少年が原付バイクに腰掛け、誰かに携帯を掛けているだけだった。

再びため息をついて空を見上げ、俺はまた自転車を走らせた。
コンビニの裏から川沿いの遊歩道に入り、しばらく行った時
後方からけたたましい排気音が聞こえた。

この道は良くノーヘル2ケツの原チャリ小僧が通り、ぶつかるのも嫌なので、俺は土手の端でやり過ごそう、と思い自転車を止めた。

案の定後方の音は原チャリ小僧達でライトの数から2台だと分かった。

(早く行けよ)

と思いながら自転車にまたがる俺の横を1台目が通過し、何故か
5mほど先で止まった。

(ん?)

と、見ていると2台目の原チャリが俺の3m手前で止まった。

(ヤバい!)

不穏な空気を感じた俺は、何食わぬ顔で自転車を走らせようとした時、1台目から降りたタンクトップの少年が、腕に入れたタトゥーをこれ見よがしに示す様に近づいてきた。

「今晩は、お兄さん」

少年はニヤニヤしながら挨拶してきたが、その目は全く笑っておらず、俺の事を凝視していた。

少年は続ける、

「初対面ですいませんけど、お願いがあるんすよ。」
「俺ら今度地震の被害受けた所にボランティア行くんすけど、
向こうまでの交通費が少し足りないんすわ、
そんでね、ちょっと義援金出して欲しいなあって思って。」

(カツアゲ?どうする?)

足が勝手に震える。

何時の間にか、バイクを降りた4人全員に囲まれている、皆年は若いが、肉体労働で鍛えたらしいがっちりとした身体つきだ。

(・・・!)

さらに1人が金属バットを肩に担いでいるのを認め、俺の恐怖は絶頂に達した。

(ヤバい、もう駄目だ、金出すしか無い。)

震えながら、尻ポケットの財布を出そうとした時、再び俺の口は勝手に動いた。

「ふざけろ、チンカス小僧‼
ガキはエロゲーやって、チンコしごいてろ!」
「45454545 19191919」

少年の目がゆっくりと細められる。

「あー、シコシコすかあ、
面白いすね、先輩。」

ガツッ、後頭部に凄まじい衝撃を受ける、目から火花が散り、頭の中に金属音がこだまする。

「ヒィーッ」

と金切り声を上げながら、ハイハイになって必死に逃げる俺の、背中といわず、顔といわずあらゆる場所を衝撃が襲う。

「オラッ、逃げんじゃねえ!」

「誰かチンカスだよ、コラッ!」

怒声と共に衝撃が続く、

俺は血と涙と小便に塗れ、暗い土手を這いずっていた。

(イヤだ、死にたくない、)

それしか考えられなかった。

フッと衝撃が止んだ。

俺は少年に襟首を掴まれ無理矢理立ち上がらされた。

口元を歪め少年が言う。

「お願いしますよ、先輩。
俺らも別あんたボコりたいんじゃないんすから、素直に出して下さいよ、ね。」

ガタガタ震えながら、頷こうとした時、また口が勝手に動いた。

「だからてめえは、ウンコ見たいな話しか思い付かねえんだよ、さっさと消えてオカアチャンのおっぱいシャブッてろ、エロガキ‼」

喋りながら気づいた。

(あれ?これ俺のコメントじゃん?)

ドスッ

鈍い音と共に、腹に焼け付くような痛みを感じた。
下を見ると、俺の腹に鈍く光るナイフが突き立っていた。
ヌルヌルとした温かい液体が
押さえた手を伝う。

「あぅ、あぅぅ」

喘ぎ声を出しながらゆっくりと崩れ落ちる。
耳鳴りがひどくなって来た。

遠くで、

「やべえ!逃げるぞ!」

と言う声とバイクの音が聞こえる。

薄れ行く意識の中、ふと耳鳴りが消え、誰かが耳元で囁いた。

「言霊返り、-完了-」

(・・・ああ、そう言う事か、)

結構、怖かったです。

サーバーがダウンしていたら、こちらから(キャッシュ)です。

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