朝日新聞 デジタル 岩手版 2013/01/24
山田町の緊急雇用の従業員全員を解雇したNPO法人「大雪りばぁねっと。」(北海道旭川市)の問題の背景を探っていくと、町や県が、委託先の能力や実績を見極めず、丸投げに近かったことが浮かび上がる。
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●要請
2011年5月、NPO法人「大雪りばぁねっと。」代表理事の岡田栄悟氏に、緊急雇用の委託話を持ちかけたのは、町だった。
当時町長だった沼崎喜一氏によると、町内の業者にも「緊急雇用で人を雇わないか」と相談したが、「事務処理が難しい」と断られていた。ハローワークで募集するため、つかいづらい人が応募してくる可能性があるし、会社の利益になる一般管理費計上も認められないため引き受け手がいなかった、という。
岡田氏は当初、「自分はボランティア。金を扱う仕事はやりたくなかった」と渋った、という。震災前、NPOが旭川市に出した活動報告書は、主な活動として「災害・水難事故の防止・啓発・救助支援活動」をうたっているが、大きな収入はなく、09年度の総収入は736万5千円でしかない。岡田氏には会社などの経営経験もなかった。
それでも山田では最初、7人の雇用で始め、それが7カ月後には150人近くになった。この中には、町などの要請で、「引き継いだ」人や仕事が少なくない。契約期間の終わった県の緊急雇用の職員、町の職員募集の枠以上に集まった応募者らを引き取らされた。
それも「町民の雇用を守るため」。物資センターの運営、避難所支援、防犯パトロール、潜水士や観光ガイドの養成、無料入浴施設の運営……。岡田氏はいま、「遊ばせておくわけにはいかず、必死で仕事を考えた」と話す。
自衛隊員や県職員による被災地への応援が削減されていく中、町にとって、NPOは貴重な存在だった。避難所の共同風呂設置などにすぐ対応することが求められる役場の「別動隊」。前副町長の佐藤勝一氏はいま、「役場職員も180人中83人が被災しており、本当に助かった」と話す。
11年9月、町は岡田氏の功績を認め、5月に任命した「主幹」から、「非常勤参与」に格上げした。委託先の代表理事でありながら、町の特別職。履歴書は未提出だったが、問題視しなかった。
岡田氏の活動実績はどうだったのか――。札幌市消防局は08年11月と09年5月の2回、水中用のロープやライフジャケットの取り扱いについて、講師を頼んでいる。消防局警防部消防救助課救助係の瀬尾和也・消防士長によると、ほかでの講師実績から頼んだという。ただ、岡田氏が「水難救助の専門家」を自称していることについて、「消防が民間と協力して水難救助をすることは、安全性から考えてありえない」と困惑する。NPOが本部を置く旭川市の消防本部も同様だ。
山田町が岡田氏に付与した公の肩書の意味は、大きかった。日本財団は、岡田氏の申請書とブログをみただけで、100万円の援助を決めた。財団は震災直後、600を超える団体に100万円ずつ振り分ける作業をしており、役所のお墨付きがある団体は、詳しい審査を省いた。最終的に計300万円を支援した。
岡田氏は、この資金などでヘリコプターを借りて海上の遺体捜索を実施した。派手な活動で、町内の信用はさらに高まっていった。
●責任
12年2月、支援活動を辞めて沖縄県に帰った元幹部はいま、「金の使い方にあきれてしまった」と話す。
仮設住宅へのおかず配達、ヘリ発着場建設、視察や訓練と称した北海道などへの出
張、現地本部のある体育施設でのパーティー、高額な制服……。
不用とは言い切れないまでも、金をかけ過ぎていないか。元幹部は辞める数カ月前、岡田氏に「公認会計士か税理士を入れろ」と忠告した。しかし「『そんなのいい』といって応じなかった」。直後の休暇中、別の幹部から電話で、「もう戻ってこなくていい」といわれた。解雇通告ともとれる内容だった。元幹部は「幹部はイエスマンばかりだった」と振り返る。
内部チェックが働かなかった背景には、独特な組織や、地元相場より高めの報酬が影を落とす。
NPOの現地団体「町災害復興支援隊」は、部隊長の岡田氏をトップに、中隊長、小隊長、隊員といったピラミッド組織だ。経理はごく少数しか知らない。所属長を通じて意見を言うのが決まりで、60代女性の元一般隊員は、「部隊長に意見を言いたい」と申し出たが、却下されたという。
一般隊員の給料は、残業手当などを含めると、町内の相場より2万円余高い月15万円前後だった。職場を失った被災者があえて異論を言う雰囲気はなかった。
町は11年度に5回、NPOとの契約を改定し、委託費を増やした。最後は4回目から1カ月後の12年1月。雇用者数は同じなのに、1億7千万円を追加で払う内容だった。財源は全額が県からの補助金。その原資も国からの交付金だ。これが、チェックを甘くした可能性は否めない。
当時、県沿岸広域振興局の副局長だった菊池正佳・県盛岡広域振興局長は、委託契約の変更に関する書類について、「中身を見ずに決裁した」という。菊池氏は「当時、がれき処理や港湾関係で120億円ぐらいを発注する仕事などをやっていた。4億3千万円が小さいとは言わないが、気にしていなかった」と話す。入浴施設については、「書類は見たかもしれないが、覚えていない」。
(伊藤智章、岩井建樹、田渕紫織、国吉美香)
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